
土地活用による相続対策を調べていると、「貸家建付地」と「貸付事業用宅地等」という言葉が出てきます。
名前が似ているため混同しやすいですが、この2つは同じ制度ではありません。
貸家建付地は土地そのものの相続税評価方法、貸付事業用宅地等は小規模宅地等の特例に関する区分です。
結論|貸家建付地と貸付事業用宅地等は別の制度
まず最初に押さえておきたいのは、
貸家建付地
と
貸付事業用宅地等
は、どちらか一方を選ぶ制度ではないということです。
それぞれ役割が違います。
| 項目 | 貸家建付地 | 貸付事業用宅地等 |
|---|---|---|
| 何の制度? | 土地の相続税評価方法 | 小規模宅地等の特例 |
| いつ使う? | 貸家の敷地を評価するとき | 相続税申告で要件を満たす宅地を減額するとき |
| 主な対象 | アパート・賃貸マンションなどの敷地 | 不動産貸付業、駐車場業などに使う宅地 |
| 効果 | 自用地評価から一定額を減額 | 限度面積200㎡まで50%減額 |
| 両方関係する? | 条件次第で関係する | 条件次第で貸家建付地評価後に適用されることがある |
つまり、アパートの敷地であれば、
まず貸家建付地として土地を評価
し、
さらに条件を満たせば、
貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例
が関係することがあります。
ここを混同しないことが重要です。
貸家建付地とは?
貸家建付地とは、自分が所有する土地に建物を建て、その建物を他人に貸している場合の土地評価です。
典型的なのは、
アパート
賃貸マンション
貸家
などです。
自分で自由に使える土地ではなく、借家人がいることで利用に制約があるため、その分を相続税評価で考慮します。
貸家建付地の評価方法
貸家建付地の評価額は、基本的に次の算式で求めます。
貸家建付地評価額
=自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
それぞれの意味は次のとおりです。
自用地評価額
その土地を自分で自由に使える土地として評価した場合の金額です。
借地権割合
土地の地域ごとに定められている割合です。
路線価図などで確認します。
地域によって異なるため、
貸家建付地なら一律70%
というわけではありません。
借家権割合
借家権割合は、現在30%です。
賃貸割合
建物全体のうち、実際に賃貸されている部分の割合です。
空室がある場合は、その分が評価に影響することがあります。
貸家建付地はどのくらい評価が下がる?
たとえば、
自用地評価額 1億円
借地権割合 70%
借家権割合 30%
賃貸割合 100%
とします。
この場合、
1億円×(1-0.7×0.3×1.0)
となるため、
評価額は7,900万円
です。
自用地評価1億円と比べると、2,100万円、つまり21%下がる計算になります。
ただし、これはあくまで、
借地権割合70%
賃貸割合100%
という条件での例です。
地域や空室状況によって評価額は変わります。
空室があると貸家建付地の評価はどうなる?
貸家建付地の評価では、賃貸割合が関係します。
そのため、建物に空室がある場合は、
常に100%賃貸として評価される
とは限りません。
ただし、相続時点でたまたま一時的に空室になっている場合など、事情によって扱いが異なることがあります。
空室が多い物件や、長期間募集していない区画がある場合は、相続税申告前に税理士などへ確認した方がよいでしょう。
貸家の建物自体も評価が下がる
相続税評価では、土地だけでなく建物側にも貸家としての評価方法があります。
貸家の評価額は、基本的に、
家屋の評価額-家屋の評価額×借家権割合×賃貸割合
で計算します。
たとえば、
家屋の評価額1,000万円
借家権割合30%
賃貸割合100%
なら、
1,000万円-1,000万円×30%
となるため、
貸家としての評価額は700万円
です。
そのため、アパート経営などでは、
土地は貸家建付地として評価
建物は貸家として評価
されることで、自己使用している土地・建物より相続税評価が下がる場合があります。
ただし、
土地と建物を合わせれば必ず何%下がる
と一律には言えません。
土地価格、借地権割合、建物評価額、賃貸割合などで大きく変わります。
貸付事業用宅地等とは?
一方、貸付事業用宅地等は、
小規模宅地等の特例
に関する区分の一つです。
貸家建付地のような土地の基本評価方法ではありません。
被相続人などが貸付事業に使っていた土地について、一定の要件を満たす場合に、相続税評価額をさらに減額できる制度です。
貸付事業用宅地等は200㎡まで50%減額
貸付事業用宅地等に該当し、要件を満たす場合は、
限度面積200㎡
減額割合50%
となります。
たとえば、小規模宅地等の特例を適用する前の評価額が4,000万円で、そのすべてが対象範囲内なら、
4,000万円×50%=2,000万円
まで減額される可能性があります。
ただし、
貸している土地なら自動的に50%減
というわけではありません。
適用には複数の条件があります。
アパートの敷地でも貸付事業用宅地等になることがある
ここは非常に重要です。
貸付事業用宅地等は、
駐車場
トランクルーム
倉庫
だけの制度ではありません。
アパート経営や賃貸マンション経営も不動産貸付業なので、条件を満たせば貸付事業用宅地等に該当する可能性があります。
つまり、アパートの敷地は、
貸家建付地として土地を評価
したうえで、
条件を満たせば
貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例
が関係する場合があります。
このため、
貸家建付地=住宅
貸付事業用宅地等=駐車場や倉庫
という分け方は正確ではありません。
貸付事業用宅地等の対象になる事業
貸付事業用宅地等では、たとえば、
不動産貸付業
駐車場業
自転車駐車場業
一定の準事業
などに使われていた宅地が対象になる可能性があります。
ただし、
貸していれば何でも対象
というわけではありません。
実際の契約内容や利用状況などを確認する必要があります。
「複数人に貸していること」は必須ではない
貸付事業用宅地等について、
複数人へ貸していないと対象にならない
というわけではありません。
また、
必ず事業所得として確定申告していなければならない
という単純な条件でもありません。
事業的規模でない不動産貸付けでも、相当の対価を得て継続的に行われているなど、一定の貸付事業に該当するケースがあります。
そのため、
借主の人数
所得区分
だけで判断しないことが大切です。
相続税申告期限までの継続・保有要件にも注意
貸付事業用宅地等の特例では、相続後の扱いも重要です。
取得した相続人などについて、
相続税の申告期限まで貸付事業を継続すること
対象となる宅地を申告期限まで保有すること
などが要件になる場合があります。
そのため、
相続した直後に売却する
すぐ貸付事業をやめる
といった場合には、特例を使えない可能性があります。
相続後すぐ土地活用を変更する予定がある場合は、先に税理士へ確認した方が安全です。
相続開始前3年以内に始めた貸付事業は注意
貸付事業用宅地等で特に注意したいのが、
相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等
です。
一定の場合を除き、相続直前に新しく貸付事業を始めた土地は、小規模宅地等の特例の対象外となることがあります。
つまり、
相続税対策のために亡くなる直前に駐車場や賃貸事業を始めれば50%減になる
という単純な仕組みではありません。
ただし、被相続人等が相続開始前から一定期間以上、特定貸付事業を行っていた場合などには例外があります。
相続直前に始めた土地活用の場合は、この3年ルールを必ず確認しましょう。
駐車場は貸付事業用宅地等になる?
駐車場も、貸付事業用宅地等に該当する可能性があります。
ただし、
駐車場として貸している=必ず小規模宅地等の特例を使える
というわけではありません。
小規模宅地等の特例でいう「宅地等」は、建物または構築物の敷地として使われている土地などが対象です。国税庁も、貸付事業として駐車場業を含めていますが、土地の利用状態や設備などによって判断が必要です。(国税庁)
そのため、
アスファルト舗装がある
フェンスや精算設備などの構築物がある
単なる更地に近い青空駐車場
など、形態によって扱いが変わる可能性があります。
駐車場経営を相続税対策として検討する場合は、
「駐車場なら50%減になる」
と考えず、具体的な土地の状態を税理士などへ確認した方がよいでしょう。
トランクルームは貸付事業用宅地等になる?
トランクルームも、契約形態や建物・設備の所有関係によっては貸付事業用宅地等に該当する可能性があります。
ただし、
トランクルーム=自動的に貸付事業用宅地等
ではありません。
たとえば、
土地所有者が建物を建てて収納区画を貸す
土地だけをトランクルーム事業者へ貸す
コンテナを設置して貸す
事業者側が建物や設備を所有する
など、同じ「トランクルーム」でも事業形態は異なります。
この違いによって、
土地の評価方法
貸家建付地に該当するか
貸付事業用宅地等を使えるか
が変わる可能性があります。
そのため、トランクルームによる相続対策を考える場合は、施設名称だけで判断せず、契約形態や所有関係まで確認する必要があります。
【関連記事】トランクルーム経営は儲かる?20年見てわかった収益・利回りと失敗する土地
貸家建付地と貸付事業用宅地等は両方関係することがある
ここまでを整理すると、
貸家建付地
と
貸付事業用宅地等
は競合する制度ではありません。
たとえば、アパートの敷地を相続するケースでは、
まず、
自用地としての評価額
↓
貸家建付地として評価
という計算を行います。
そのうえで、貸付事業用宅地等の要件を満たしていれば、小規模宅地等の特例による50%減額が関係する場合があります。
つまり、
貸家建付地として評価を下げる
↓
さらに小規模宅地等の特例を検討する
という順番になることがあります。
ここが、
「アパート=貸家建付地」
「駐車場=貸付事業用宅地等」
と単純に分けられない理由です。
両方が適用されるとどのくらい評価が下がる?
分かりやすくするため、単純な例で考えてみます。
たとえば、
自用地評価額 1億円
借地権割合 70%
借家権割合 30%
賃貸割合 100%
のアパート敷地があるとします。
まず貸家建付地として評価すると、
1億円×(1-0.7×0.3)
となるため、
7,900万円
です。
さらに、この土地のうち小規模宅地等の特例の対象となる部分について、貸付事業用宅地等として50%減額できる場合があります。
ただし、貸付事業用宅地等の限度面積は200㎡です。
そのため、
7,900万円全額が必ずさらに50%になる
というわけではありません。
土地面積や他の小規模宅地等の特例との適用関係によって計算結果は変わります。
相続税対策を検討するときは、
「貸家建付地で何%下がる」
「さらに50%下がる」
という数字だけを足し合わせないようにしましょう。
他の小規模宅地等の特例と併用すると限度面積にも注意
貸付事業用宅地等の限度面積は200㎡ですが、相続財産に、
自宅の土地
事業用の土地
貸付用の土地
などが複数ある場合は、他の小規模宅地等の特例との組み合わせも関係します。
たとえば特定居住用宅地等や特定事業用宅地等と貸付事業用宅地等を一緒に適用する場合は、単純にそれぞれの限度面積を全部使えるとは限りません。
国税庁でも、貸付事業用宅地等を含めて適用する場合は、一定の面積調整を行う仕組みとしています。(国税庁)
複数の土地がある場合は、
どの土地に小規模宅地等の特例を使うか
によって相続税額が変わることもあります。
この部分は税理士へ具体的な試算を依頼した方がよいでしょう。
相続税評価だけで土地活用を決めない
アパートやトランクルーム、駐車場などを始めると、条件によっては相続税評価を下げられる場合があります。
しかし、
相続税評価が下がる=その土地活用が成功する
という意味ではありません。
たとえばアパートなら、
建築費
借入金
空室
修繕
家賃下落
などのリスクがあります。
トランクルームや駐車場でも、
需要がない
利用者が集まらない
設備費や維持費がかかる
契約終了後の活用が難しい
といった可能性があります。
相続税を100万円減らすために、それ以上の投資損失を出してしまえば意味がありません。
そのため、土地活用は、
相続税評価
だけでなく、
初期投資
収益性
借入金
将来の修繕
売却しやすさ
次の世代が管理できるか
まで含めて判断しましょう。
「節税になるからアパートを建てる」は慎重に考える
相続税対策としてアパート建築が提案されることがあります。
確かに、アパートは貸家建付地や貸家評価、小規模宅地等の特例などによって相続税評価が下がる可能性があります。
一方で、建物は完成後も長期間残ります。
相続後に、
空室が増えた
大規模修繕が必要になった
ローン返済が重い
相続人が経営を続けたくない
という状況になることもあります。
そのため、
評価減が大きいから建てる
のではなく、
その場所で賃貸事業が長期間成立するか
を先に考えることが重要です。
【関連記事】相続税対策でアパート経営が失敗しやすい理由とは
トランクルームや駐車場も「小さいから安全」とは限らない
アパートより初期投資を抑えやすい土地活用として、トランクルームや駐車場を検討することがあります。
ただし、
小規模だから失敗しにくい
管理が簡単だから安定している
と一概にはいえません。
土地活用は立地によって需要が大きく変わります。
特に、
周辺に利用者がいるか
道路から入りやすいか
競合施設が多くないか
将来ほかの用途へ転用しやすいか
などを確認することが重要です。
相続税の評価減だけでなく、事業として成立するかを必ず確認しましょう。
【関連記事】鉄骨造トランクルームとアパートはどっちが堅実?土地活用のポイント
貸家建付地と貸付事業用宅地等の違いを比較
改めて両者を比較すると、次のようになります。
| 項目 | 貸家建付地 | 貸付事業用宅地等 |
|---|---|---|
| 制度の種類 | 相続税の土地評価 | 小規模宅地等の特例 |
| 主な役割 | 貸家が建つ土地の利用制限を評価へ反映 | 貸付事業用の土地を一定範囲で減額 |
| 主な対象 | アパート・賃貸マンションなどの敷地 | 不動産貸付業・駐車場業などの宅地 |
| 減額の考え方 | 借地権割合・借家権割合・賃貸割合を反映 | 限度面積200㎡まで50%減額 |
| 相続後の継続要件 | 評価時点の状況を確認 | 一定の場合、申告期限まで事業・保有継続が必要 |
| 相続直前の開始 | 評価状況によって判断 | 3年以内貸付宅地等の制限に注意 |
| 両方使える? | 条件次第で両方関係する | 条件次第で貸家建付地評価後に適用可能 |
このように、
同じ「土地評価を下げる話」に見えても、仕組みは別
と理解しておくと分かりやすいでしょう。
よくある質問
Q. アパートの土地は貸家建付地ですか?
自分の土地に自分で建物を所有し、その建物を第三者へ賃貸している場合は、貸家建付地として評価されることがあります。
実際の評価では、借地権割合、借家権割合、賃貸割合などを確認します。
Q. アパートでも貸付事業用宅地等を使えますか?
条件を満たせば対象になる可能性があります。
アパート経営も不動産貸付業に含まれるため、
貸家建付地として評価
したうえで、
貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例
が関係する場合があります。
Q. 貸付事業用宅地等は何㎡まで使えますか?
限度面積は200㎡で、減額割合は50%です。
ただし、特定居住用宅地等など他の小規模宅地等の特例も適用する場合は、面積の調整が必要になることがあります。(国税庁)
Q. 駐車場なら必ず50%減になりますか?
必ずではありません。
貸付事業用宅地等では、土地が建物または構築物の敷地として使われていることなどが関係します。
駐車場の舗装や設備、利用実態などによって判断が必要です。
Q. トランクルームなら貸付事業用宅地等になりますか?
トランクルームという名称だけでは判断できません。
建物やコンテナの所有者、土地の契約形態、利用方法などによって扱いが変わる可能性があります。
Q. 相続直前に駐車場を始めれば50%減になりますか?
必ずしもなりません。
相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は、原則として貸付事業用宅地等から除かれるルールがあります。
ただし、被相続人等が相続開始前から3年を超えて一定の貸付事業を行っていた場合などには例外があります。(国税庁)
Q. 複数人に貸していないと貸付事業用宅地等になりませんか?
複数人に貸していることは一律の要件ではありません。
国税庁は、事業的規模でない不動産貸付けでも、相当の対価を得て継続的に行われる準事業などであれば対象になり得るとしています。(国税庁)
Q. 貸付事業用宅地等を使えば相続直後に売却してもいいですか?
取得者や貸付形態によっては、相続税の申告期限まで対象土地を保有し、貸付事業を継続することが要件になります。
特例を使う予定なら、相続直後に売却や事業終了を決める前に確認しましょう。(国税庁)
まとめ|貸家建付地と貸付事業用宅地等は別制度。相続税だけで土地活用を決めない
以上、貸家建付地と貸付事業用宅地等の違いは?相続税評価と小規模宅地等の特例を解説...というお話でした。
貸家建付地と貸付事業用宅地等は名前が似ていますが、役割は異なります。
貸家建付地
は、アパートなど貸家の敷地そのものを評価する仕組みです。
一方、
貸付事業用宅地等
は、小規模宅地等の特例によって、一定の貸付事業用土地について200㎡まで50%減額できる制度です。
そして重要なのは、
どちらか一方を選ぶわけではない
という点です。
アパートの敷地などでは、
貸家建付地として評価
↓
条件を満たせば貸付事業用宅地等も検討
という形になる場合があります。
ただし、相続税評価を下げられるからといって、その土地活用が有利とは限りません。
建築費、収益性、空室、修繕、借入金、将来の売却や相続後の管理まで含めて判断することが大切です。
相続税対策として土地活用を検討する場合は、
どのくらい評価が下がるか
だけでなく、
その事業を次の世代まで無理なく続けられるか
まで確認しましょう。