
親が老人ホームへ入ると、次に悩みやすいのが「誰も住まなくなった実家をどうするか」という問題です。
売ってしまえば管理は楽になりますが、入居直後に急いで売却すると、あとで後悔するケースもあります。
この記事では、老人ホーム入居後の実家について、売った方がいいケースと、まだ売らない方がいいケースを分けて解説します。
結論|老人ホームに入ったからといって、すぐ実家を売る必要はない
親が老人ホームへ入ったからといって、すぐに実家を売却しなければならないわけではありません。
特に入居したばかりなら、
施設での生活が合うか
本人が自宅へ戻りたいと考えるか
家族が実家を今後使う予定があるか
などがまだ見えていないことがあります。
一度売却すると、基本的には元へ戻せません。
そのため、急いで売る事情がないのであれば、一定期間様子を見る方法もあります。
一方で、
何となく決められないから何年も放置する
のは別問題です。
空き家になった実家には、
固定資産税
火災保険
庭の管理
修繕費
遠方なら交通費や管理費
などがかかります。
大切なのは、
すぐ売る
でも
ずっと残す
でもなく、状況を見ながら判断することです。
実家を売った方がいい5つのケース
まずは、売却を具体的に検討してもよいケースから見ていきます。
親が実家へ戻る可能性が低い
今後、自宅へ戻って生活する可能性が低いのであれば、実家を残しておく必要性は小さくなります。
たとえば、
施設での生活が安定している
本人も施設生活を続ける意思がある
身体状況から自宅生活への復帰が現実的に難しい
といったケースです。
ただし、
「もう戻らないだろう」
と家族だけで判断するのではなく、本人が意思表示できるなら本人の意向も確認しましょう。
老人ホーム費用の資金が必要
老人ホームへ入居すると、毎月の利用料が発生します。
年金や預貯金だけで無理なく支払えるなら、資金確保のために実家を急いで売る必要はありません。
一方で、
毎月預貯金を大きく取り崩している
このままでは数年後に資金不足になる可能性がある
という場合は、実家売却も資金計画の一つになります。
売却を考える前に、
施設費用はいくらか
年金はいくら入るか
預貯金はいくらあるか
実家を残す維持費はいくらか
を整理すると判断しやすくなります。
【関連記事】老人ホームの費用はいくらかかる?実家を売る前に知っておきたいお金の話
空き家を管理できる人がいない
実家を残すなら管理が必要です。
確認したいのは、
郵便物
庭木・雑草
雨漏り
水漏れ
建物の破損
防犯
台風など災害後の状態
などです。
家族が遠方に住んでいたり、仕事や介護で頻繁に行けなかったりすると、何年も管理を続けるのは大きな負担になります。
管理サービスを利用する方法もありますが、それでも長期的に維持する意味があるかは考える必要があります。
【関連記事】実家が遠方で管理できない!空き家をどうする?現実的な管理方法を解説
建物の老朽化が進んでいる
空き家でも建物の劣化は進みます。
特に、
雨漏り
外壁の劣化
屋根の傷み
給排水設備の不具合
庭木の成長
などは、誰も住んでいないと発見が遅れることがあります。
今後誰も住む予定がなく、
いつか売るつもり
で残しているだけなら、建物がさらに古くなる前に売却を比較する方法もあります。
少なくとも、現在いくらくらいで売れそうなのかを確認しておくと判断材料になります。
将来も家族が使う予定がない
親が戻らない。
子どもも住まない。
孫も使う予定がない。
という状態なら、実家を長期間残す理由は小さくなります。
相続後に共有名義となった場合には、売却や活用について家族間の調整が必要になることもあります。
親が意思表示できるうちに、
この家を将来どうしたいのか
を話しておくことも重要です。
まだ実家を売らない方がいい4つのケース
一方で、老人ホームへ入居しても、売却を急がない方がよいケースもあります。
入居したばかりで施設生活がまだ分からない
入居直後は、本人が施設生活に馴染めるか分からないことがあります。
本人が、
やっぱり自宅へ戻りたい
と考える可能性もあります。
また、現在の施設から別の施設へ移ることになり、今後の生活方針が変わるケースもあります。
急いで売る理由がないなら、施設での生活が落ち着くまで実家を残す方法もあります。
親本人が売却に納得していない
家族にとっては、
誰も住まない古い家
に見えても、親にとっては何十年も暮らしてきた大切な自宅です。
本人が判断できる状態で、売却を希望していないのであれば、家族の都合だけで進めない方がよいでしょう。
まず、
残すと年間いくらかかるのか
施設費用は無理なく払えるのか
今後戻る可能性はあるのか
を本人と一緒に整理します。
施設費用を年金や預貯金で無理なく払える
施設費用を年金や預貯金で十分支払える場合、資金確保のために実家を急いで売る必要性は下がります。
ただし、
施設費用だけ
を見るのではなく、
施設費用+実家の維持費
で考えることが重要です。
実家を残しても家計に無理がないなら、一定期間様子を見る選択肢があります。
家族が実家を使う予定が具体的にある
子どもや孫が住む予定があるなど、具体的な利用計画があるなら売却を急ぐ必要はありません。
一方で、
いつか誰かが使うかもしれない
というだけで長期間空き家にすると、その間ずっと維持費と管理負担が続きます。
残すなら、
誰が
いつ頃
どのように使うのか
まである程度決めておくとよいでしょう。
売るか迷ったら「見直す時期」を決めて保留する
老人ホームへの入居と実家売却を同時に進める必要はありません。
判断が難しい場合は、
今は売らない
ただし一定期間後にもう一度考える
という方法があります。
たとえば、
入居直後
→ 施設生活を優先し、実家は最低限管理する
しばらく経過した後
→ 本人が施設生活に馴染んでいるか確認する
見直し時期
→ 自宅へ戻る可能性、施設費用、実家維持費を再確認する
という流れです。
3か月後、半年後、1年後など、家庭によって適切な時期は違います。
重要なのは、
判断を保留したまま何年も放置しないこと
です。
実家を残すと年間いくらかかるか計算する
売るか迷ったときは、実家を残す費用を数字にすると判断しやすくなります。
主な費用は次のとおりです。
| 費用 | 内容 |
|---|---|
| 固定資産税・都市計画税 | 所有している間は基本的に負担 |
| 火災保険など | 空き家になった場合は契約条件の確認が必要 |
| 電気・水道 | 契約を残す場合の基本料金等 |
| 庭木・雑草管理 | 自分でできなければ業者費用 |
| 修繕費 | 屋根・外壁・雨漏りなど |
| 交通費 | 遠方から管理する場合 |
| 空き家管理サービス | 利用する場合 |
たとえば仮に年間20万円かかる家庭なら、
20万円×5年間=100万円
です。
もちろん実際の金額は物件によって異なります。
重要なのは、
「実家を残す」という判断にも費用がかかる
と理解しておくことです。
【関連記事】親が施設に入った後の実家の固定資産税はどうなる?
売却前に査定額だけ確認する方法もある
実家を売ると決めていなくても、現在どのくらいで売れそうなのか確認することはできます。
査定価格が分かれば、
今売る
数年間残す
家族で使う
といった選択肢を比較しやすくなります。
たとえば、
今後5年間の維持費
と
現在の査定価格
を並べて考えるだけでも判断材料になります。
ただし、査定額は実際の売却価格を保証するものではありません。
複数社で査定額に差が出ることもあります。
▲実家を売った場合の査定価格をまとめて比較してみる
親名義の実家は子どもだけで売却を決めない
実家を売却するときに必ず確認したいのが名義です。
親が老人ホームへ入ったからといって、親名義の実家を子どもが自由に売却できるようになるわけではありません。
重要なのは、
誰が所有者なのか
親本人が売却内容を理解して判断できるか
代理権があるのか
です。
要介護認定や施設入居だけでは判断できない
親が要介護認定を受けていたり、老人ホームへ入居していたりしても、それだけで不動産売買の契約ができないと決まるわけではありません。
反対に、子どもだからという理由だけで親に代わって契約できるわけでもありません。
本人が売却の内容や結果を理解し、自分の意思で判断できるかどうかが重要です。
本人による判断が難しい場合は、成年後見制度などが関係することがあります。
また、成年後見人が本人の居住用不動産を処分する場合には、家庭裁判所の許可が必要になるケースがあります。
具体的な状況によって手続きが異なるため、判断に迷う場合は司法書士や弁護士などへ相談しましょう。
【関連記事】施設に入った親の家を子どもが勝手に売れる?名義と認知症の注意点
実家を売るなら税金も確認する
実家を売って利益が出た場合は、譲渡所得に対する税金がかかることがあります。
一方で、一定の条件を満たす自宅の売却では、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除」を利用できる可能性があります。
親が老人ホームへ移って実家に住まなくなった場合でも、一定期間内に売却するなどの要件を満たせば対象になる可能性があります。
そのため、
「今はまだ売らない」
という判断をするときも、税制上の期限が関係しないか確認しておくことが大切です。
相続後の空き家特例とは別の制度
注意したいのは、親本人が自宅を売却するときの3,000万円特別控除と、親の死亡後に相続した空き家を売却する場合の特例は別制度という点です。
この記事で主に想定しているのは、
親が存命中に、親名義の実家を売却するケース
です。
実際にどの特例を利用できるかは、取得時期、居住状況、売却時期、売却先などによって変わります。
金額が大きい場合や適用条件が分からない場合は、売却契約をする前に税務署や税理士へ確認すると安心です。
売却以外の方法もあるが、この段階では広げすぎなくていい
実家を売らない場合には、
そのまま管理する
賃貸に出す
駐車場など一部を活用する
家族が使う
といった選択肢もあります。
ただし、「売るかどうか」で迷っている段階から、すべての土地活用を細かく比較する必要はありません。
まず、
親が戻る可能性
本人の意思
施設費用
実家の維持費
家族の利用予定
を整理し、そのうえで売却以外の方法も比較すると分かりやすいでしょう。
実家の選択肢全体についてはこちらで詳しく整理しています。
【関連記事】親が施設に入ったら実家はどうする?空き家の放置リスクと5つの選択肢
また、建物を残したまま駐車場だけ活用する方法もあります。
【関連記事】親が施設に入って実家が空き家に|駐車場だけ貸して維持費を補う方法
実家を売るか迷ったときの判断チェック
ここまでの内容を整理すると、売却前に確認したいのは次の項目です。
- 親が自宅へ戻る可能性はあるか
- 親本人は売却に納得しているか
- 実家の名義は誰か
- 本人が売却について判断できる状態か
- 老人ホーム費用を無理なく支払えるか
- 実家の年間維持費はいくらか
- 実家を管理できる人はいるか
- 建物の老朽化は進んでいないか
- 将来家族が住む予定はあるか
- 現在の売却価格の目安を把握しているか
特に、
親が戻る可能性が低い
今後家族も使わない
管理する人がいない
維持費の負担が大きい
という条件が重なるほど、売却を具体的に比較する理由は強くなります。
反対に、
入居直後
本人が売却を望んでいない
自宅へ戻る可能性が残っている
維持費を無理なく払える
のであれば、急いで売却せず一定期間様子を見る方法もあります。
老人ホーム入居後の実家についてよくある質問
Q. 老人ホームに入ったら実家はすぐ売った方がいいですか?
必ずしもすぐ売る必要はありません。
特に入居直後は、本人が施設生活に馴染めるか、自宅へ戻る可能性があるか分からないことがあります。
ただし、残している間も固定資産税や管理費などはかかるため、一定期間後に見直す時期を決めておくとよいでしょう。
Q. 親が老人ホームに入ったら子どもが実家を売れますか?
親名義の実家であれば、子どもだからという理由だけで自由に売却できるわけではありません。
本人の意思や判断能力、代理権などを確認する必要があります。
【関連記事】施設に入った親の家を子どもが勝手に売れる?名義と認知症の注意点
Q. 親が認知症になったら実家は売れませんか?
認知症という診断名だけで一律に売却できる・できないと判断するものではありません。
重要なのは、本人が売却内容を理解し、自分の意思で判断できる状態かどうかです。
本人による判断が難しい場合は、成年後見制度などが関係する可能性があります。
Q. 実家を売ったお金は老人ホーム代に使えますか?
親名義の実家を親本人が売却した場合、売却代金は基本的に親の財産です。
老人ホーム費用や生活費など、本人のために使うことは考えられます。
家族のお金と混同せず、入出金の記録が分かる形で管理するとよいでしょう。
Q. 実家を何年くらい残しても大丈夫ですか?
「○年までなら大丈夫」という一律の基準はありません。
建物状態、管理状況、本人の生活、家族の利用予定などによって変わります。
残す場合は期間だけで判断せず、定期的に管理し、一定のタイミングで売却するかどうかを見直しましょう。
Q. 実家を売る前に査定だけしてもいいですか?
売却を決めていなくても査定を依頼することはできます。
現在の価格を知っておけば、今後の維持費と比較して売るか残すか判断しやすくなります。
ただし、査定額は実際にその金額で売れることを保証するものではありません。
Q. 老人ホームに入った後でも3,000万円特別控除は使えますか?
老人ホームへ入ったことだけで直ちに対象外になるわけではありません。
以前住んでいた自宅についても、売却時期など一定の要件を満たせば、居住用財産の3,000万円特別控除を利用できる可能性があります。
税制上の要件は細かいため、実際に売却する場合は税務署や税理士へ確認しましょう。
Q. 売らずに貸した方が得ではありませんか?
建物状態がよく、賃貸需要があれば貸す方法もあります。
ただし、
修繕費
入居者募集
管理費
空室
入居者がいる間は自由に使えない
といった点もあります。
「家賃が入るから売るより得」と単純には判断できません。
実家全体の選択肢はこちらで解説しています。
【関連記事】親が施設に入ったら実家はどうする?空き家の放置リスクと5つの選択肢
まとめ|老人ホーム入居=すぐ実家売却ではない
以上、親が老人ホームに入ったら実家は売るべき?売らない方がいいケースも解説...というお話でした。
老人ホームへ入ったからといって、実家をすぐ売らなければならないわけではありません。
特に入居直後で、
本人が施設生活に馴染めるか分からない
自宅へ戻る可能性が残っている
本人が売却を望んでいない
といった場合は、一定期間実家を残して様子を見る方法があります。
一方、
自宅へ戻る可能性が低い
施設費用の資金が必要
実家を管理できない
建物の老朽化が進んでいる
将来家族も使わない
という条件が重なるなら、売却を具体的に検討する理由は強くなります。
迷ったときは、
親が戻る可能性
↓
本人の意思・名義
↓
施設費用
↓
実家の年間維持費
↓
現在の査定価格
という順番で整理すると判断しやすいでしょう。
「今は売らない」という判断をしても構いません。
ただし、そのまま何年も放置するのではなく、親の生活状況や建物状態が変わったタイミングで改めて見直すことが大切です。
実家を売る以外の選択肢も含めて考えたい方はこちらも参考にしてください。
【関連記事】親が施設に入ったら実家はどうする?空き家の放置リスクと5つの選択肢
▲売るか迷っている段階でも、実家の現在の査定価格を確認してみる